プロフィール
渡邊美穂(わたなべ・みほ)
技術翻訳者京都大学大学院工学研究科で材料工学を専攻。新卒で大手電機メーカーに入社し、技術製造現場の実務に従事。夫の海外赴任を機に退職を決意。「地域の技術を海外へ発信するサポートがしたい」という想いから、赴任先のカナダにて翻訳を学び、帰国後、フリーランスの技術翻訳者として活動を開始。現在は、屋号「LinkWits」として、翻訳だけでなく海外営業支援の仕事や研究者の英文調査補助等、幅広く言語支援を行っている。同時に、一児のママとして子育てに奮闘中。
大手からフリーランス、日本から海外へ。変化の激しい日々
ー今までどんなキャリアを歩まれてきたのですか?
渡邊 大学院卒業後、大手電機メーカーの製造技術者として採用、そこで新技術の工場を立ち上げるチームに入りました。その後、夫の海外赴任を機にカナダへ移住し、翻訳を学びました。帰国後はフリーランスの技術翻訳者として活動しています。帰国して間もなく出産を経験していて、1児のママとして子育てに奮闘中です!
大手からフリーランス、日本から海外と生活スタイルが転々とされていることが特徴的ですね。
京大リケジョママの原点
ー製造技術者から技術翻訳者と、かなり専門的な印象を受けました。今回のインタビューのテーマも「リケジョママ」ですが、もともと理系科目がお好きだったのですか?
渡邊 幼い頃から工作が好きで、よく工作の本を買って遊んでいました。
学習研究社が出していた「科学」という小学生向け雑誌があるのですが、当時小学校に販売しに来ることがあって、それを楽しみにしてました。中学校でも理科の授業が好きでしたし、高校では物理が一番好きな科目でした。
それもあって、大学では物理工学科に入りました。その中でも、興味があったり、先輩から勧められて材料工学を専攻しました。
好きを活かした仕事を
ー新卒では大手電機メーカーに就職されていますよね。やはり「好き」を活かせるようなお仕事をされたかったのですか?
渡邊 そうですね。大学院で学んだことを役立てたいと思っていて、それは何か考えた時に、太陽電池といった「環境に優しい技術」を製造したいと思ったんです。そこで、太陽電池で一番勢いのあった電気メーカーに就職することにしました。
ー電機メーカーではどんなお仕事をされていたのですか?
渡邊 材料半導体シリコンの製造技術者として、新技術の工場を立ち上げるチームに入り、現場の実務に従事していました。設備プロセス開発から導入、生産立ち上げから工程管理・品質管理等、さまざまな業務に従事しました。
工場は地元からも離れた地方だったですが、新しい土地で新しい技術を製造するという何もかも初めての体験で、頭が常にぐるぐるしていました。笑
大変なこともありましたが、とても面白くてやりがいのあるお仕事でした。
大手とはいえ、立上げのため小さなチームから始まって。小さなチームで乗り込んで装置も何もないところから作り込むんです。製品が出来上がっていく面白さ、徐々にメンバーが増えてみんなで力を合わせながら作り上げていく面白さ、本当にダイナミックで楽しいお仕事でした。
世界にまだない技術を製造する場で、とても難しい取り組みでしたが、だからこそワクワクしましたね。
夫の海外赴任。人生を変えたある漫画との出会い
ーお話を伺っているだけで、ワクワクが伝わってきました。やりがいのあるお仕事だったということですが、なぜ転職されたのですか?
渡邊 入社して4年半ほど経った時に、夫と結婚することになりました。同時に、夫が海外に赴任すると聞き。一緒にカナダに行こうと誘ってくれたんです。海外に住むなんて面白そうだなと思いました。
ー不安はありましたか?
渡邊 不安よりもまず、「面白そう!」というワクワクの気持ちが大きかったです。
ただ、2年間海外となると、仕事はどうしようという不安はありました。技術系の仕事は地方で働くことが多く、当時はリモートワークという考えもなかったので、転職しなければならないなと。会社を辞めるかどうか、辞めたら何をするのかたくさん悩みました。
ー退職を決意されたきっかけは何だったのですか?
渡邊 どうしようか悩み疲れて、大好きな漫画を読んでいたんです。あずまきよひこさんの「よつばと!」という漫画です。
「よつばと!」は、夏休みの前日、とある町に強烈に元気な女の子「よつば」と、「とーちゃん」親子が引っ越してきた。遠い海の向こうの島から来た不思議な女の子。 「よつば」(6歳)に振り回される周りの人達の日常を描いたハートフル?コメディー。(「よつばと!」HPから引用)
主人公のよつば(娘)ととーちゃん(父親)の話で、お父さんは家で翻訳の仕事をしているんです。よつばちゃんはお父さんのそばにいて、のびのびと育っていて。その家族像に憧れました。
海外に住めば英語も勉強できると思い、製造技術者として4年半ほど働いていたこともあって、全部のピースがはまったように感じて、技術翻訳者を目指すことにしました。
翻訳者なら子育てとのバランスを調整しながら働くことができそうだったので、ワークスタイルとしても良いなと思いました。
海外生活と翻訳者への道
ーたまたま読んでいた漫画が、今のワークスタイルを形成するきっかけだったのですね。実際に海外ではどんな生活をされていたのですか?
渡邊 カナダでは、語学学校と翻訳学校に通い、翻訳企業でインターンシップをしました。カナダには2年間ほど滞在しました。とても充実していました。
ー帰国されてからは、翻訳者として活動を始めたのですか?
渡邊 はい。帰国後、フリーランスの翻訳者として仕事を始めました。2013年からフリーランスとして活動しているので、もう6年目になりますね。翻訳会社の下請けから始まり、今は、直接、製造業者さんや法人さんからお仕事をいただいたりしています。
出産と夫の転職
ー順風満帆のような印象を受けますが、何か大変だったことはありますか?
渡邊 大変なこと、たくさんあります!笑
一番は、子育てですね。出産・育児の時期と夫の転職がちょうど被ってしまったことです。仕事も落ち着いてきたし子育てをスタートしようと思った時に、夫が転職して東京に行きたいという話になり。その時、私は東京はすっかりモンスターだと思っていていたので、子育てはできれば関西の実家の近くでと考えていたので、この時期に東京は無理!と、はじめは受け入れられませんでした。
「応援したい」その一心で決めた東京移住
ーそんな状況の中で、東京への移住を決意されたきっかけは何だったのですか?
渡邊 夫は、スタートアップで、会社のマネジメントにも関われる仕事をやってみたい!と言い、その話を聞いた時に、面白そう!共感する!応援したい!という気持ちと、モンスター東京に行くのか……という気持ちのせめぎ合いでした。でも、何より、夫の転職によって、きっと家族としての人生が面白くなるだろうと思ったんです。
夫は大学時代に出会って、同志みたいな存在でした。なので、どんな仕事をするかは二人で共有したり共感することが多くて。
私は子育てに集中したかったので仕事は一旦加速させず、フラットなスピードを維持するけど、夫は今さらにスピードアップしたいと思っていて。それを私は応援したいと思いました。
ーどうして応援したいと思われたのですか?
渡邊 いつも追体験しているような感触があるんです。頑張っている人の話を聞くとその人の話を聞いて、追体験しているような気持ちになって、とてもワクワクします。
夫の話も本当に面白そうでワクワクしたので、全力で応援したいなと思いました。
仕事と育児の両立は想像以上に大変だった
ー実際に東京に移住してみて、いかがでしたか?
渡邊 生後半年で復職し、生後9ヶ月くらいで、モンスター東京に移住しました。
とても大変でした。子育ては想像以上に半端なくて…。
育児のワンオペの厳しさを知りました。東京で身寄りがいないので、新しい土地で相談できる人が近くにいなかったことも大きく、1年以上は奮闘しました。
ーどういうところが大変でしたか?
渡邊 仕事と育児の両立は、どちらも時間が足りなくなってしまって。特に、育児は時間だけでなく、体力が持ちませんでした。個人事業主の保活もとても大変でした。
仕事面では土地が変わったことで、仕事内容や取引先も変わったのも大変でした。
取引先との関係性の再構築や、転居と産休明けに仕事のボリュームを少しずつ積み立てていったりしました。
仕事と育児。楽しむためのコツは欲張りにあった。
ーどう乗り越えたのですか?
渡邊 育児面では、夫とどう分担するか何度も話し合いを重ねました。毎日毎日、お互いの意見をぶつけ合って、擦り合わせていきました。
後、仕事面では、VACANCYに出会えたことが本当に良かったことで、ワークスタイルを組み立てる助けになりました。
夕方までコワーキングスペースで仕事モード、夕方からは自宅で育児に励む。そんな生活スタイルになりました。
VACANCYでは、五反田界隈で仕事をしている方々とのコミュニケーションの中で、頭の中を整理したり、仕事のヒントをもらったりして。後、冗談を言い合ったり、笑いもたくさんあって、本当に楽しいです。
東京に来て1年半くらいでやっと、少しずつ楽しんでいる感覚がありますね。
ー渡邊さんのお話を伺っていて、何でも楽しんでいらっしゃる印象を受けました。楽しむ秘訣はありますか?
渡邊 そうですね、確かに、何でも楽しんでいます。
楽しむ秘訣は、欲張ることですかね。笑
私は、技術周辺の仕事が大好きで、それが誰かの役に立つと嬉しくて楽しいです。でも仕事だけではなくて、家のことも子どものことも、いろいろしたいんです。それは家族が愛おしいからだと思います。仕事も家族も何でもって、欲張りですけど、これからも欲張っていきたいです。
ママになったことでの変化。
ーママになって仕事に対するモチベーションは変わりましたか?
渡邊 出産・育児がわからないものだったけど一回経験してみて、よしこんな感じだな!って安心しました。不安が消えて落ち着いて仕事できるようになりました。落ち着いたことで、人生で何をするか計画しやすくなりました。
また、こんなに時間が貴重なんだと知ったので、短時間で何をどれだけできるのかを考えるようになりました。
ー時間的な制約がある中で、仕事を効率的に進めるためのコツなどはありますか?
渡邊 常にスケジュールの画面に向き合って、取捨選択をしています。細部はある程度切り捨てて、小さな失敗でくよくよしないということを意識しています。そこはVACANCYに助けられていて、落ち込んでいたり、困っていたら、オーナーの小山さんはじめ、利用者の皆さんに相談すると「大丈夫じゃないか」って励ましてくれたり冗談を言ってくださるので、元気がでます。
ーフリーランスになって良かったと思いますか?
渡邊 フリーランスは会社員よりも育児とスケジュール的に両立しやすいと感じています。仕事のスケジュールやボリュームを調整しやすくて、子どもに急にイヤイヤ期がきてメンタルがそっちに取られたり、子どもに必要とされたらそちらを優先したりして調整できるところが良いところだと思います。
ーリケジョママの強みは何ですか?
渡邊 理系だと論理的に何でも考えることが多いので、そこが自分の子育てにも役立っていると思います。これからも、論理性とママという女性の細やかさを持ち合わせていけたら良いなと思っています。
ー素敵ですね。仕事面で、今後のビジョンはありますか?
渡邊 「LinkWits」で何をできるのか深めていきたいです。
翻訳だけでなく、海外営業支援の仕事や研究者の英文調査の補助をしたり、世界が広がってきていて。それを、どう広げていくのか、どう深めていくのかが今年の課題で、今後はチームメンバーも増やすことができればと考えています!
技術力はあるのに言語的障壁があり、発信できていないことが、日本の課題の一つだと捉えています。製造業界のエコシステムに、英語でどう貢献できるのか。技術×英語をテーマに、中小製造業が海外に直接ビジネス展開できるよう支援をしていきたいです。
人生は精進
ー最後に変化する人生の中で、意識されていることがあれば教えてください。
渡邊 自分にとって大きい変化がたくさんありました。正直、いつも変化にはいっぱいいっぱいで。でも、何でも「楽しい」に転換するように頑張っています。いつも大変な時に思い出すのは、精進という言葉かもしれません。
こどものころ祖父に挨拶代わりに、「精進してるか」って毎日言われてきたんです。
精進は人生のテーマで、大変な時、たまにそれを考えます。精進すると人生が豊かになる気がしているので、楽な方に逃げるのではなく、精進することを意識していますね。
ー渡邊さん、ありがとうございました!
大きな変化の中で、変化を楽しみながら生きていらっしゃることや、どちらかではなく「どちらも」という考え方に私自身刺激を受けました。
諦めてしまうのではなく、どうしたらどちらもできるのか、どうしたら欲張れるのかしっかり考えて生きることが幸せに生きるために重要なのだなと思いました。
リケジョの方や渡邊さんのお話に興味を持った方はぜひにご連絡ください!
そして、そんな渡邊さんが利用してくださっているコワーキングスペースVACANCYにぜひお越しください!
♡インタビューに登場したおしゃべりなオーナーがお待ちしております!