今回は、コンサート・ライブ制作を行う株式会社T・I・Iの代表取締役社長、伊井俊晴さんにお話を伺いました。
伊井さんは新卒で入社したリフォーム会社を半年で退社し、音楽業界の道へ転身されて15年が経つそうです。アルバイトから正社員、さらには起業に至るまでの15年間についてインタビューをさせていただきました。
なぜ音楽業界に転身されたのか、ライブ制作とはどのようなお仕事なのか、一番のやりがいやプライベートとの両立の話まで様々なことを伺いました。
「将来について何も考えていなかったしやりたいこともなかった」と語る伊井さんが、どうして起業するまでに至ったのか、また”やりたいことが見つからない”という方に向けてメッセージもいただきましたので、ぜひご一読ください!
プロフィール
伊井俊晴
1980年生まれ。静岡県藤枝市出身。2003年3月立正大学 文学部 社会学科 卒業。リフォーム会社に新卒で入社し、半年で退社。(株)アポロ・ブラザーズでアルバイトを経験したのちに契約社員となる。2008年に関連会社である(株)ホットスタッフ・プロモーションへ入社、コンサートプロモーター業を行う。2014年5月にホットスタッフ・プロモーション退社の後に(株)SKY VIVIONにてライブ制作業に転身。2018年8月にライブ制作業を主とする(株)T・I・Iを設立し、現在に至る。
ー2017年にコンサート・ライブ制作を行う会社を起業されたと伺いました。制作というのは具体的にどういうお仕事ですか?
伊井 自身でイベント企画から行うこともありますが、近年はライブをしたいというアーティスト側の要望をいただいて、ライブを作るお手伝いをしていくことが多いです。
どういった内容が良いのか、どういう風に売っていきたいのか話し合いを重ねて、実際に作っていくという仕事です。会場が決まらないと何も始まらないので、会場を取るところから、スタッフのアサインやチケットの販売、宣伝方法決め、リハーサルのスケジュール組みなど、0から全てを考えていきます。もちろん予算があるのでその中でできることを考えていき、細かい調整や依頼をひたすら電話やメールでしていくようなそういう仕事です。
ー音楽業界で働かれるきっかけはなんだったのですか?
伊井 新卒でリフォーム会社に入社しシロアリ駆除の仕事を行っていたのです、その仕事が様々な面できつくて半年くらいで辞めることにしました。音楽がもともと好きでなんとなくやってみたいと思っていたので、音楽業界で働くことにしました。
ただ、音楽関連の仕事をしたいとはいえ、当時自分で何も調べていない状況で……。そんな時、たまたま大学の先輩に連れて行っていただいた飲み屋で、音楽関連のイベンター(コンサートプロモーター)という仕事があることを知りました。飲み屋の店員さんからフジロックフェスティバルというイベントを運営している会社があると聞いて、すぐにその会社を電話帳で調べて「アルバイトをしたい」と電話をかけました。結局アルバイトを募集していないと断られたのですが、同じような会社でアルバイトを募集しているところがあると紹介していただき、すぐに電話をして面接に行きました。面接の場で「この日の夜中0時に武道館に来て」と言われて、これは有難いと思いすぐに働かせていただくことに決めました。それが、長渕剛さんのライブでした。
ー「なんとなくやってみたい」という気持ちで音楽業界のアルバイトを始めたということですが、将来に対する不安はありませんでしたか?
伊井 全くありませんでしたね。というか何にも考えていなかったので、不安という感情も出てこなかったです。笑
もともとやりたいことがなかったので、学生の頃から就活に重要性を感じずなんとなくで会社を選びました。音楽もなんとなく好きだしやってみようかなくらいの気持ちで始めました。何も考えていないと不安という気持ちにもならないんですよ。
一新卒で入社した会社を辞めてフリーターになるというのは大きな決断ですし、周囲には社員として働かれている方が多かったと思うのですが、人と比べたりはしませんでしたか?
伊井 比較はしませんでした。人と比べてはいけないし、人は人です。人と同じようにやれと言われても人間できないですし……。比べてしまったら悩んでしまって前に進めなくなるので、比べずにとりあえずやってみるということを意識していました。何事も自分のタイミングで良いと思いますね。
ー実際にイベント運営のアルバイトをされてみていかがでしたか?
伊井 本当に感動しましたね。すごいなと思ったのは、あんなに規模の大きいステージを全て人が作っているという点です。複数の会社から仕込みのスタッフが集まり、たくさんの人たちと一つのステージを作り上げるんですよ。
ただ、当日、夜中の0時から明け方まで仕事をしていたんですけど、朝5時くらいに寝てしまって……。5時間くらい荷物を運んだりしていたら睡魔が襲ってきて、夜通しでステージを作り上げていくということすら知らず、昼間一睡もせずに出勤したので居眠りをしてめちゃくちゃ怒られました。笑
ーアルバイトとして入社されてから現在に至るまで、音楽業界でのお仕事を続けられていますよね。「辞めたい」とは思いませんでしたか?
伊井 辞めようと思った時期はありました。2005年にアルバイトから社員になって、来る日も来る日もティッシュみたいに使われて、2年くらい経ったタイミングで辞めたいと思いました。そのことを上司に相談したら別の関連会社に異動させていただけることになりました。ただ、当時の音楽の仕事自体が嫌だったという訳では全くなく、その時の環境が辛かったというだけで、職種や業種に対して不満を感じたことはないですね。
ーアルバイトから正社員としての採用が決まり働かれる中でどうして転職されることになったのですか?
伊井 アルバイトとして音楽業界に飛び込み、その後は関東を拠点としている会社で、コンサートプロモーターという仕事を2014年まで正社員としてしていました。その中で、アーティストと話し合ってどういうライブを作っていくのか0から考えていくツアー制作の仕事がしたいと考えるようになりました。ただ、当時その会社では僕が希望する内容のライブ制作に関することは扱えない状況でした。なので考えた末に退職することにしました。
ただ、ライブ制作に関しては莫大なお金が必要ですし何より信用が大切です。そういった点でフリーランスという選択肢はなく、どこかでできないかなと考えていた時に、ちょうど当時勤めていた会社の元上司の方が会社を立ち上げていて、制作を行っていたので入れていただきました。それが、2014年の5月のことでしたね。そこで3年間働かせていただき、2017年に独立をしました。
ー起業されるきっかけは何だったのですか?
伊井 元上司の方の会社で働かせていただく中で、だんだんインもアウトも自分でできるようになってきて、そろそろ一人でやってもいいのではという話になり起業することにしました。
ーもともと独立を考えていらっしゃったのですか?
伊井 独立する意思はなかったですね。ただ、ライブ制作をして3年が経つ中で、お金も経験も貯まっていたので、環境を変えてチャレンジしたくなったというのが大きいです。
ー起業を決断された時、ご家族はどのような反応でしたか?
伊井 大学生の頃からの付き合いの妻は、僕のこのどうしようも無い性格を理解してくれています。起業すると言った時も「好きにすれば」と言ってもらいました。笑
ー実際に起業されてみていかがでしたか?
伊井 今までどれだけ会社に守られていたのかを実感しました。給与や保険関連のことも全部自分でやらなければならないですし、何よりキャッシュフローを考えることがこれだけ大変なことなのかと痛感しました。
ーそれだけ大変なことがあっても事業を続ける理由は何ですか?
伊井 まず、プライド的に引き下がれないというのが理由の1つです。笑
確かに大変なことは多いですが、3年はやってみたいし5期くらいは会社を回したいという思いがあって、完全に好奇心ですね。
ー3年を指標とされているのはなぜですか?
伊井 漠然としていますが、3年くらいやれば何となく分かってくるかなというのが理由です。昨年、失敗したら大きな額の赤字になるような案件をやっていて、すごく大変でお金って大事だなと実感したり、辛いことも多い時期でしたが、最近は一緒に動いてくれる新しい仲間ができました。1年くらいかけて人を雇えるレベルになってきているので、少なくとも3年はやっていきたいですね。
ーお仕事の1番のやりがいは何ですか?
伊井 これは昔から変わっていないのですが、アーティストとお客様の双方が盛り上がった瞬間の画を観ることです。たった2〜3時間のライブのために1年くらい前から必死に準備を重ねます。なのに、本番はたった一瞬で終わるんです。その一瞬で、結果が決まります。お客様に来て良かったと思っていただけると、こちらもやって良かったという達成感があります。アーティストやお客様にやって良かった、来て良かったっていう感情を持っていただける時、やりがいを感じます。それを毎回現場で感じて達成感を持ち続けることができます。僕はすごく飽き性ですが、これは全く飽きないですね。
ー伊井さんにはお子さんがいらっしゃいますよね。起業されてとてもお忙しいと思うのですが、プライベートはどのように過ごされていますか?
伊井 確かに忙しいですが、子どもと過ごす時間は増えてきています。起業するまでは、週末は現場で平日はオフィスで仕事だったので、年間数十日しか休めないですし、入った仕事は断れずプライベートの時間を作るのは大変でしたけど、今は自分の現場でなければいくらでも休むことができます。なので、最近は同年代の親御さんとキャンプに行ったり、家族で公園に行ったりしてプライベートを過ごしていますね。
ー仕事とプライベートのバランスを取るために工夫していることはありますか?
伊井 もともとバランスを取ることが下手くそなので、つい仕事ばかりやってしまうのですが、プライベートでやりたいことをちょっとづつ増やすようにしています。僕は計画性がなく行き当たりばったりでやる性格なのでプライベートも「明日から連休だしどこか行こうか!」みたいな感じで家族で旅行に出かけたり、そんな感じですね。
ーVACANCYはいつから利用されていますか?
伊井 2017年4年から利用しているので、2年ちょっとになります。もともといた会社も現在の会社も自宅登記をしているので、基本的にはカフェで作業をしていました。原宿や渋谷のカフェやコワーキングスペースで仕事をしていたのですが、値段が高くて別の場所を探していました。そんな時、自宅からアクセスの良い五反田にVACANCYがあることを知りました。すぐに電話をして、空きがあったので即決しましたね。wifiもプリンターもあって便利だと思いました。
ーVACANCYを利用されてみていかがでしたか?
伊井 良かったです。今でも毎日のように利用していて、仕事が現場ではない日はオフィス代わりとして利用しています。他のコワーキングスペースだと月額利用で月に5万円とか結構高いところが多いのですが、ここは1万円ちょっとで安いので値段的にも良いですね。
ー最後に、やりたいことが見つからないという方に向けて何かアドバイスはありますか?
伊井 僕自身、やりたいことは未だにないですけど、飽き性の僕がこれだけこの仕事を継続できているということはつまりそれがやりたいことだったんだなという感覚はあります。たまたまかけた一本の電話でここまで続いているって、なんだか不思議ですよね。
とりあえずやりたいことが見つからないという人は、どんな仕事でもいいので、与えられたことを真っ向から考えて自分なりに工夫をして真面目にやってみることです。そうすると段々楽しくなっていくんじゃないですかね。ただ「嫌だな」っていう気持ちでやっていると、いつまで経っても意味がないんですよね。仕事をする中で、最初は段取りが悪くて怒られたりしますけど、仕事を真面目に続けていけば段取りを良くしようと頑張るようになります。
例えば、前社ではアーティストの複数の担当者たちの現場情報を逐一回して手配をするという流れをずっと行っていました。そうすると、段々とパターンや好き嫌いというのが分かっていくんです。その人の好みに合わせた仕事をしていくと、アーティストに喜んでいただけるようになって、認められるようになって「勝手にやっていいよ」と仕事を任せていただけるようになりました。その結果、自分ももっとやりやすくなりますし、段取りも分かるようになっていって……。たくさんのことを言われてパンクしそうになる中で、悩まず、自分で考えて物事を整理していくとすっきりしますし、もう少しこうしてみようという余裕が出てきます。余裕が出ると仕事がどんどん楽しくなっていくと思います。
まずは、今やっていることや少しでも興味があることを、1回自分なりに極めることが大切です。合わないなら辞めれば良いですよ。僕はたまたま、一本の電話でそれに出会えましたけど、新卒で入った会社は全然合わなくて半年で辞めてしまいましたし。興味のあることに出会えたらラッキーという気持ちで何でも取り組んでみてください。
ー伊井さん、ありがとうございました!
音楽業界に転身された理由が「なんとなく音楽が好きだったから」というのは、私にとってとても新鮮で、張っていた背筋が緩むような「それでいいんだな」と思えるあたたかい言葉でした。
今までは、転職や起業など人生のターニングポイントとなるような大きな決断には、どこか大それた理由が必要な気がしていました。でも、誰かが納得するような理由ではなくて、自分がどう思うかが大切で、自分の信じたことを全力でやりきることが重要なんだと思いました。
読者のみなさんにとって何か人生が少しでもプラスになるようなインタビューになっていれば幸いです。ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
p.s.
そんな伊井さんとお話してみたい!伊井さんが利用しているVACANCYってどんなところなの?とご興味を持ってくださった方はぜひぜひVACANCYにお越しください(^^)賑やかなオーナーとお待ちしております!